油断大敵
先日、高齢者のご夫婦が来院されました。
ご主人は一昨年前ほどから物忘れが進み、最近は話す言葉の組み立てにも手間取るようになっておられます。
また、片方の目が黄斑変性症に罹患しており、近所の眼科に通院中です。
そのご主人に問診をすると、しきりに目の不調を訴えられます。
「ニ三日前から目がおかしい。家内は違うというけれど、いつもと違って絶対おかしい」と、黄斑変性症に罹患している方の目の状態が変化して来ていると一所懸命主張されます。所が、残念ながら自分の症状をうまく説明出来ないので、こちらとしても状態を確りと把握できません。
奥様曰く、ご主人は三日前のことも忘れてしまうようになったので、黄斑変性症による、前からあった「いつもの目の不調」を忘れて、ニ三日前から急に発症したと思っているのだろう。
私はそれらを伺った上で、黄斑変性症の症状かも知れないし加齢が原因の飛蚊症かも知れないが、万が一網膜裂肛や網膜剥離などが起きていたら大変だとお二人に説明し、出来るだけ早く眼科を受診されることを説得しました。
網膜の剥離が進んでしまうと失明にもなりかねません。
「眼科に行って、網膜剥離を否定してもらうと良いですね。」とお伝えすると、納得して帰路につかれました。
実は以前にも似たような事例があります。
初老の患者さんが肉体的に疲れると同時に眼も不調になることを経験され、以降、目が不調になると「いつもの身体の疲れからくるやつだ」とマッサージを受けて不調を改善されていました。
ある時、酷い目の不調を感じたその患者さんはいつものマッサージを受けても改善されないため、友人の方の紹介で評判の整体を受けに行かれたそうです。
所が症状は改善されないばかりか徐々に悪化して来ていたので、ご紹介で当院に来院されました。
問診の時点で明確に網膜剥離の症状を訴えておられたので、即座に眼科を受診するように強くお勧めしました。
眼科では「もう少し早く来ていたらレーザーの処置で済んでいたのに」と指摘され、大きな病院で強膜バックル術(強膜内陥術)を受けてその後視力は回復されました。
当院でも、治療途中の患者さんが来院された際に毎回行う問診で、患者さんが「いつもの調子」と言われることがあります。
また、久しぶりに来院された患者さんが「いつもの症状」と言われることも多いです。
それは、あくまでも患者さんが自覚症状として「いつもの」と思っておられるのであって、本当の身体の状態は違っているかもしれません。
という訳で毎回の問診時には、たとえ「いつもの」と言われても、表現を変えた問いかけを試みたり、触診方法を変えたり様々な工夫をして、「いつもの」の裏に何か違った問題が潜んでいないかどうかを探っています。